アインシュタインももてなした創業115年のクラシックホテル「奈良ホテル」

ホテルの記事なのになぜピアノの画像がトップなんだと思われたかもしれない。このアップライトピアノは奈良ホテルの魅力を語るキーアイコンの一つなのだ。

奈良ホテルは1909年(明治42年)に創業。日露戦争後に急激に増加した外国人旅行客を受け入れるべく「関西の迎賓館」として開業した。建設費用は鹿鳴館の2倍とも言われ、設計は東京駅や日本銀行本店を手がけたことでも知られる日本近代建築の父、辰野金吾というから気合が入っている。明治建築、そして辰野金吾といえば煉瓦造りの建物のイメージが強いが、寺社の多い古都・奈良の景観との調和を重視し和洋折衷の様式を採用した。

ピアノが置かれているロビー「桜の間」

そんな奈良ホテルには日本の皇族をはじめ、アインシュタイン、ヘレンケラーなど歴史上の著名人、各国の王族や首相などが滞在した。1922年に改造社の山本実彦により招待され日本各地を講演してまわっていたアインシュタインは奈良へ立ち寄りこの奈良ホテルに2泊滞在した。その滞在中に冒頭のアップライトピアノで演奏したという逸話が残っているのだ。アインシュタインはいつも旅先にヴァイオリンを携行するほどのヴァイオリン愛好家として知られているが、ピアノも好んで弾いていたとはなんとも才能豊かな人物だ。

ピアノを弾くアインシュタインの姿が写真に収められている。

どんな曲を弾いたのか、アインシュタインのいた空間で空気を煎じてあれこれ妄想を膨らませる。静かで優しい灯りをともす照明が心地良い。時期によっては鑑賞会が開かれることもあるとのこと。スケジュールが合えば100年前の音色を聴くことができるかもしれない。

春日大社の本殿の釣灯籠をモチーフにした和風シャンデリアをオードリー・ヘップバーンが気に入り一緒に写真を撮っていたといわれている。

もう一つの魅力

さて、このホテルの魅力をもう一つ紹介したい。それはなんと言ってもメインダイニングルーム「三笠」だ。明治時代の重厚な和洋折衷の雰囲気と気品が漂う魅力的なダイニングルームだ。

できれば窓際の席に座りたい。このサンルームのような席はかつてバルコニーだった野外の部分を改築したスペースで、開放感がありとても気持ちがいい。席によっては奈良の象徴である興福寺の五重塔が見える(現在、興福寺は改修工事中のためカバーがかけられ足場が組まれている)。

Photo by Ayako Inaba

席に着くと皺のない折り目のついたクロスにきれいに並べられたシルバーのカトラリーがすっと心を落ち着かせてくれる。朝食はビュッフェスタイルではなくメインを選ぶスタイルだ。私はおすすめのポーチドエッグを注文した。サービスはそれぞれの担当者が行う分業制になっているようだ。注文を取る人、コーヒーを注ぐ人、食事を運んでくる人、それぞれユニフォームも異なる。私はドリップで淹れられた熱々のコーヒーをシルバーのポットに入れてサービスしてくれるクラシックホテルのサービスが好きだ。賓客としてもてなされているかのような優雅なひとときを過ごせる。なんともいえない心から癒される朝だった。

歴史が刻まれたクラシックホテルでしか味わえない時間とサービスを堪能できる数少ないホテルの一つだ。好きな本や写真集を持って出かけたい。喧騒から離れて非日常を味わいに一度訪れてほしい。

奈良ホテル
〒630-8301 奈良市高畑町1096
TEL 0570-66-6088(ナビダイヤル)
公式サイト:https://www.narahotel.co.jp/

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Ayako Inaba

ZEROMILE編集長。外国人富裕層へコンシェルジュサービスを提供するPrivate Concierge, Inc.の代表取締役。既に人生の半分を日本のコンテンツを外国人へ紹介する仕事に費やす。ポップでエレガントであることを大切にしている。最近では後進を育成することに意欲を燃やしている。

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