マドモアゼル・ユリアの 【語るキモノ】 Vol.6 パナソニック汐留美術館 「ベル・エポックー美しき時代 パリに集った芸術家たち」

DJとしてファッションシーンで活躍しながら、着物のプロデュースも手掛けるなど多彩な顔を持つマドモアゼル・ユリアさん。アートや建築にも精通したユリアさんが、お気に入りのスポットを訪ね、その場面と響き合う着物のコーディネートを語る連載。第6回は、高層ビルの一角に佇むパナソニック汐留美術館を訪ねた。凝縮した空間に薫り立つパリの美の革新に、同時代の着物を纏ったユリアさんが一層の華やぎを添えた。

バーガンディに染まる第2章の空間に、ユリアさんの着物姿が美しく映えて。

パリの芸術のレボリューションとの邂逅

入口はパリの瀟洒な雰囲気を醸すミントグリーンに彩られている。

近代化の風潮が一気に高まった19世紀末から20世紀初頭。日本では西洋文化の流れにともなって文明開花が息づいた一方、パリではベル・エポック期を迎え多彩な芸術が台頭。「新しい文化を取り入れようと、芸術や文化が変革するエネルギッシュな時代に惹かれます」と語るユリアさん。こよなく楽しみにしていたという展覧会「ベル・エポックー美しき時代 パリに集った芸術家たち」を、ドレスを彷彿とさせるようなアンティークの訪問着姿で巡る。

エミール・ガレやドーム兄弟など、美しいガラスの作品もこの時代を象徴するもの

展覧会は全4章仕立てで構成されている。作品の素晴らしさはもちろんのこと、注目すべきは各章だてに合わせて壁の色から照明に至るまで、趣向を凝らした空間演出にある。第1章では、古き良きパリで生まれたファッションや絵画がスモーキーピンクの壁を背景にノーブルに設えられた。
続く第2章では、モンマルトルに集った芸術家たちの交流が垣間見える手紙をはじめ、カフェやキャバレーを描いた絵画とポスター画が目を惹く。それまでブルジョワ階級の特権だった芸術が、市民階級へと浸透したムーブメントを、ドラマティックなバーガンディの空間に閉じ込めた。

展覧会のメインビジュアルにもなっているポスター画。ユリアさんの後ろ姿からも凜とした華やぎが漂う。

1枚目:バーガンディの壁が当時のパリの情熱を物語るよう。
2枚目:「パリを訪れたら必ずロダン美術館に足を運ぶほど」と語るユリアさん。ブロンズによる『ヴィクトル・ユゴーの肖像』を真剣に見つめる。
3枚目:ジュール・シェレ《ムーラン・ルージュ》 1889年 デイヴィッド・E.ワイズマン&ジャクリーヌ・E.マイケル蔵 © Christopher Fay

第3章では、モンマルトルをエンターテイメントの中心として押し上げた劇場のポスター画がロイヤルブルーの壁から鮮やかに際立つ。非日常の時空を包み込む幻想的なサーカスや、人気を博したダンサーの恍惚とした表情で埋め尽くされている。

リズミカルに舞うダンサーたちの背景から、洒脱な音楽が聞こえてきそうだ。

フィナーレを飾る第4章では、「女性たちの活躍」を切り口とした作品がミントグリーンの壁の中で静かに佇む。なかでも、ベル・エポック期に活躍した大女優サラ・ベルナールは多くの芸術家たちのミューズとして作品に登場。自らが被写体となるだけでなく、芸術家同士の架け橋としての役割も担っていた。さらに、ベル・エポック期の代名詞といえるルネ・ラリックの作品にユリアさんも心酔。ショーケースに釘付けとなり「ブローチのデザインも洗練されていますね。そのまま帯留めになりそうです」とイマジネーションを膨らませた。

アルフォンス・ミュシャがサラ・ベルナールのためにデザインしたヘッドドレスを、ルネ・ラリックが実際に制作。繊細かつ豪奢な細工に、ユリアさんも思わず目を奪われる。

花鳥風月が大胆に華やぐ大正キモノで

地下のコンコースを飾るメガ広告には、展覧会の見どころとなる作品が凝縮。

「ベル・エポック〜美しき時代」の展覧会に寄せて、この日ユリアさんが纏ったのは、大胆な配色と躍動的な花鳥図が描かれた訪問着。ベル・エポックの時代に合わせた大正期のものだそう。

「美術館を訪れるのが10月末ということで、秋らしい刈安色を選びました。銀杏をはじめ、草花のシルエットを強調した抽象的な描き方が、アール・ヌーヴォーを思わせるよう。鮮やかな瑠璃色を効かせた配色にも、西洋好みの気配が漂います」(ユリアさん)。

帯締めは紅葉、簪には葡萄のモチーフを選ぶなど、暮れゆく秋の風情を吹き寄せた。

帯に織りだした牡丹唐草のしなやかな流線もアール・ヌーヴォーのムードを漂わせて。

洗練されたカシミヤのコートは、ユリアさんが友人と手掛けるブランド「KOTOWA」の和洋兼用コート。

MADEMOISELLE YULIA
(マドモアゼル・ユリア)

10 代から DJ 兼シンガーとして活動を開始。DJ のほか、着物のスタイリングや着物 教室の主催、コラム執筆など、東京を拠点に世界各地で幅広く活躍中。2023年には友人と着物ライフをお洒落に彩るブランド【KOTOWA】を立ち上げる。YOUTUBE チャンネル「ゆりあの部屋」は毎週配信。
OFFICIAL SITE :https://yulia.tokyo
Instagram : @MADEMOISELLE_YULIA

今回訪れた場所はこちら
パナソニック汐留美術館「ベル・エポックー美しき時代 パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に」
住所:東京都港区東新橋1-5-1東京汐留ビル4階
展覧会公式URL:https://panasonic.co.jp/ew/museum/

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Takako Kabasawa

クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークやブランディングも行う。着物や茶の湯をはじめとする日本文化や、地方の手仕事カルチャーに精通。2023年に、ファッションと同じ感覚で着物のお洒落を楽しむブランド【KOTOWA】を、友人3人で立ち上げる。https://www.k-regalo.info/

Photo by Natsuko Okada

広告制作会社・出版社の写真部門を経て、(株)Studio Mug を設立。和の文化・ファッションを中心に、マガジン、広告問わず活動中。ライフスタイルから派生するジャンルの撮影を得意とする。2019年より写真専門学校で未来のフォトグラファー育成の講師を担当

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