小原晩【たましいリラックス】vol.3 阿佐ヶ谷七夕まつり

阿佐ヶ谷行きの電車に揺られながら、『ひらやすみ』第二集を読み返す。ちょっと涙ぐむ。
今日はだいすきな漫画である『ひらやすみ』の作者・真造圭吾先生のトークショーへゆくのだ。『ひらやすみ』は阿佐ヶ谷のまちを舞台にしており、とくに第二集では阿佐ヶ谷の夏を描いている。ちょうど今日は阿佐ヶ谷七夕まつりの日なのだけれど、この七夕祭りは第二集の題材にもなっているのだ。信造先生のトークイベントと阿佐ヶ谷七夕祭りが同じ日だなんて、一度に二度うれしくて、杉並区よ、ありがとうとこころのなかで感謝をつぶやく。

阿佐ヶ谷パールセンターに入ると、アーケード内には、いろとりどりのハリボテたちがかざられている。見上げながら、人波にさらわれながら、すすむ。歩けど、歩けど、おもしろい。ひとりきりでうきうきとして、誰も並んでいない出店のかき氷を買う。ブルーハワイください。真っ青の氷をスプーンストローで小さくすくいとり、口にはこぶとしゃん、とちいさな音をたてて、きえる。夏なんですね。

トークイベントの会場となった阿佐ヶ谷地域区民センターへ行くと、『ひらやすみ』ミニ展示が行われていて、時間までゆっくりとながめる。
トークイベントがはじまり、真造先生と編集者さんがいろんなことを話してくれる。好きな作品の裏話ってこんなにうれしくてありがたいんだなあとしみじみ思う。

帰り道、『ひらやすみ』の主人公・ヒロト君の好物であるたこ焼きを食べるため、第一話に登場した「わいたこ いちばん店」に並ぶ。よくばってソースとポン酢のふたつをたのんで、出店で生ビールを買い、ロータリーに腰かける。熱々のたこ焼きを口にほうりこみ、つめたいビールで流しこむ。こころに、しあわせがやってくる。阿佐ヶ谷姉妹のハリボテに見送られ、家路につく。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。https://obaraban.studio.site

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