小原晩【たましいリラックス】vol.16 ぶらり

引っ越したら大きな本棚を買って持っているすべての本をひとところにならべるのだよ、と考えていたのだけれど、無事に引っ越しがすんでからも、どんな本棚を買えばいいのかさっぱりわからないまま、すべての本はダンボールの中でゆっくりと眠っている。だから、ひさしぶりにあの本を読み返したいとか、ぼんやりとではあるけれどあっち系の……とか本を探してみるのだけれど探そうにも探せない。

段ボールのなかにある本は読めない。買い足してきた本は読める。そういうふうにここ最近は過ごしている。
本には海であってほしい。無数に並んだ本から、私は永遠を感じたい。本屋さんに行くのでもいいのだけれど、試しに読むことが長くなるのは気がひけるほうだという理由から、普段は読まないジャンルや知らない作家に気軽に出会いたいとき、つまりは気分としては「ぶらり」が重要になるときは図書館へいくことが多い。

午後六時。仕事の区切りがついたので、午後八時までやっている図書館まで歩くことにした。あたらしい町の図書館である。気分が浮ついてくる。作業していたファミレスをでると、長袖でも肌さむい。大通りにはやさしい風が吹いている。いつまでも歩いていきたいような秋である。角から柴犬がでてくる。お前もこれからは昼間に散歩できるね。心のうちで話しかける。夏のうちは昼間の酷暑に耐えきれず、夕方過ぎに起きて昼前に眠る生活だった。お互いに夏という長い夜を超えて、これからは昼間に復帰していこうじゃないか。秋の昼間はきもちいいもの。

手をつないでお互いにうっすらと口を開けているのだけれど何もしゃべらず歩いている恋人たちの横を通り過ぎる。しあわせの風景である。しばらく歩いて図書館に辿りつく。明かりのついた窓のない図書館である。これは、そういうことか、とドアまで近づいていくと「本日は五時まで」と張り紙がある。祝日だった。忘れていた。よくあることなので、落ち込みもせず、すぐ引き返す。秋だしね。また明日行くことにして、近々閉店することが決まっているブックオフがあったので吸い込まれるように入り、山ほど購入して、シェアサイクルに乗って帰った。よいぶらりであった。

(引っ越す前によく散歩していた道のアジサイの咲いたり枯れたり)

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。https://obaraban.studio.site

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