小原晩【たましいリラックス】vol.14 蝶よ花よ映画よ

夏は夕暮れごろに起きる。
昼は起きていても仕方がないほど暑いのだから。

夕焼けに包まれつつパン屋などへ行って、第一食を食べる。
それからぼちぼち仕事をはじめて、なんとかひとつやふたつ原稿を書き、腹が減って第二食を食べる頃には夜十時である。しばらくぼうっとして二十三時になる。もう少し原稿を書きたいけれど、力が出ない。そういうときは移動をしたり、なにか栄養を与えてやるべきで、栄養といってもご飯を食べてしまうと眠たくなってしまうので、今夜は映画をみることにした。

平日でもミッドナイトショーを開催しているバルト9へ終電で向かう。
毎週たのしみにみていたドラマ「おいハンサム! !」の「映画 おいハンサム! !」観ることにする。チケットを取ると、まだ誰も席をとっていない。もしかして、貸切になるかな、と多少うわついて、一番真ん中の席をとってみる。

チケットをとったら、目の前にある珈琲貴族へ向かい、熱い珈琲をすする。それからパソコンをひらいて、ゆるく書いていく。

一時間ほど経って、会計を済ませ、バルト9へいそいそ向かう。
ペプシとチュロスを買って、両手がふさがる。両手がふさがったまま、エスカレーターを上がる。真夜中の新宿を見下ろす。負けつづけてここにいる、と少し感傷的になる。感傷的になるだけであって、暗くはならない。未来は今から、今からである。
シアターに入ると、貸切のわけもなく、すでに何人か座っている。真ん中の席に座ってみて、チュロスをかじる。シナモンが、太ももにぱらぱら。
映画は、はじまる。いつもの感じと、映画だからの大きな仕掛け、それでもラストシーンはみんなの家で、お父さんの言葉を大切に聞いて、涙につられて、大号泣して、灯がついた。

蒸し蒸しと暑い新宿をほっつき歩きながら、タクシーで家まで帰るか悩んだけれど、珈琲貴族で珈琲を一杯飲んでから始発で帰ることにした。
またきたな、とわざわざ思われるわけもないのに、またきてしまいました。お邪魔します。と、こころのなかでぷつぷつ言う。今度はアイスコーヒーを頼んで、映画のサントラを耳に流して、原稿に向かう。深夜の珈琲貴族でパソコンに向かう人、本をひらいている人、頭を抱えている人、みんなみんな仲間である。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。 https://obaraban.studio.site

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