小原晩【たましいリラックス】vol.5 十四時過ぎに起きて

十四時過ぎに起きて、服を着替え、髪を整え、家をでる。

すこし歩いてバスにのる。腹ごしらえにラーメン屋さんに入る。カウンターからどんぶりをおろすと、にぼしの匂いが鼻にぐんとくる。

私の父はラーメン屋だったから、うちにはにぼしのたくさん入ったダンボールがいくつもあって、私はそこからこっそりにぼしをぬきとって猫のラッキーに食べさせていた。だからにぼしの匂いをぐんと嗅ぐと、猫がくにゃんくにゃんとにぼしを噛んでいる様子をおもいだす。

にぼし、野生っぽく口をひらく猫、ちいさな光る歯、ぴんく色の歯茎、くずれてゆくにぼし、くにゃっくにゃっと鳴る音が、頭のなかでループする。ちょっと食欲がなくなる。しかし食べきって、煙草を吸う恋人の横でぼうっとする。ラーメン屋を出て、つぎはどこへ行こうか考えるためにカフェへいく。

思いもよらず生ビールが350円だったのでつい頼む。日が暮れる。夜がきもちよければ秋、さむければ冬だ。今夜は秋。

ビールをのみほし、古着屋へいく。服のことは好きだけれど、私が着なければならないのがちょっとくるしい。私のからだつきは服のうつくしさの邪魔をするから。

いくつか古着屋をまわり、散々悩んでドライバーズニットを買う。米を入れる紙袋がショッパーだったので、米袋を片手に喫茶店へいく。カスタードプリンを食べる。

非常においしい。いままでの人生でいちばん好みのプリン。と、頭のなかで喋る。

左隣に座っていた女の子ふたり組は訴訟の話をして、右隣に座っていた女の子ふたりはロッテの中継ぎの話をしていた。ともだちと話すときって、家族や恋人と話すときよりも声が大きくなるものですよね。

それから二杯目のラーメンを食べにいく。ひとりきりではたらいている、おそらくアルバイトの店員さんの「ごゆっくりどうぞ」のこころのなさにうろたえる。棒読みだけれど、マニュアルは省略しないその勤勉さにうろたえるのだ。

部屋に帰ってシャワーを浴びて、缶ビールを一本だけあけて、ふわふわと就寝。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。 https://obaraban.studio.site

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