コーヒー侍の一杯を巡る旅】File6:Coffee and Baked Ura〜深浦哲也さん

日本にはコーヒーの生豆から自家焙煎を探求し、その魅力を最大限に引き出す手段としてハンドドリップ方式を貫く珈琲店がある。そこで、気骨ある店主のコーヒー哲学もスパイスとなった、とっておきの一杯を巡る連載をお届けしたい。第6回は、横浜エリアへ。裏路地の大きな窓が目印の「Coffee and Baked Ura」を訪れ、こだわりの一杯と、マリアージュを奏でる焼き菓子を堪能した。

飾らない日常を紡ぐ、自然体の一杯

ハンドドリップの面白さは、一杯のコーヒーに店主の人柄が立ち込めることにある。渾身の一滴を抽出する侍もいれば、会話をしながら軽やかに“すご技”を披露する侍もいる。今回ご紹介する「Coffee and Baked Ura」の深浦哲也さんは、さりげないパフォーマンスの中に凝縮された思いが詰まった後者のタイプ。

店を構えたのは、東急東横線の東白楽駅から徒歩3分。エリアに住む人々が、駅との往来で通り抜ける裏路地に佇む。周囲には保育園も多く、子どもを連れた若い夫婦も自転車やバギーをひいて行き来する。開放的な窓と北欧ライクなブルーグレーのドア、ベンチの置かれたエクステリアなど、気取らない洒脱さに、思わず足を止める人も多いとか。「素敵な個人店が多く、私達が住み慣れた愛着のある街に店を持ちたかった」と店主の深浦さんは語る。「Coffee and Baked Ura」は、まさに彼が思い描いていた理想を映し出したようだ。

大学を卒業し楽器店に勤めた深浦さんが、この道を志したのは“カフェ・カルチャー”への興味から。鎌倉のカフェレストランにキッチンとして転職しながら、並行して別のカフェでも働くうちに、究極のコーヒーに気持ちが傾き出す。焙煎やハンドドリップの原点を学んだのは曳舟の名店「Cafe Sucre」でのこと。4年間コーヒーと向き合うなか、ハンドドリップ チャンピオンシップ(JHDC)2018で優勝する名誉を得る。さらに、異なるタイプの専門店でカフェのマネージメントを任される。満を持して自らの店を開業したのは2023年10月1日。国際コーヒーの日に「Coffee and Baked Ura」は幕を開けた。

自家焙煎のコーヒーは“日常のコーヒー”がコンセプト。メニューを選ぶときにお客様が迷わないよう、ブレンドはハウスブレンドと季節のブレンドの2種類、シングルオリジンは浅煎り・中煎り・深煎りの3種類、それにデカフェを加えた6種類がベース。そのほか、コーヒー好きの常連のためにスポットで希少なシングルオリジンの豆も時折扱う。ハウスブレンドは、中煎りのブラジル産の豆が丸みを保ち、中浅煎りに煎ったエチオピア産ウォッシュドプロセスの豆がスッキリとした後味を誘う。

「うちのカップは大きめということもあり、苦味と酸味のバランスがよく、最後までスッキリと飲めることを心がけで焙煎しています」(深浦さん)

チャンピオンに輝いたハンドドリップのパフォーマンスは、冒頭のごとく一見何気ない。注ぎ始めはスピード感をもって豆にお湯を含ませ、その日の豆の状態や、常連の好みに応じて湯量や速度を微調整する。コーヒーは前半と後半で抽出される成分と濃度が異なるため、淹れ終えてから、サーバーの中で上下が対流するように撹拌。提供する前に、必ず味見をして答え合わせをするという。

「これまで重ねた経験値でストライクゾーンに入るとわかっていても、その時々で挽き目を変えたり、注ぐタイミング、速度、注ぐ場所を微調整しています」(深浦さん)

自分の方程式に驕らず、コーヒーと謙虚な対話を続けているからこそ、“いつでも美味しい一杯”に仕上がるのだろう。

街の風景となる、コーヒーと焼き菓子の“DUO”

「Coffee and Baked Ura」は朝8時から常連を迎え、夕方以降は仕事帰りのお馴染みが顔を出せるように、19時まで扉を開けている。コーヒーもさることながら、妻・理恵さんの焼き菓子もお目当てのひとつ。理恵さんは、「パンとエスプレッソと」「Good People & Good Coffee」をはじめ「TINTO COFFEE」などで、コーヒーに加え焼き菓子の経験も積むこと約12年。常時5~6種類のケーキやクッキーがカウンターを飾る。

さらに、ファミリー層も多い地域柄をふまえ、同店ではデカフェにも力を入れている。デカフェと聞くとコーヒー好きには無関係のように思えるが、「コーヒーが好き過ぎて1日に何杯も飲んでしまうお客様のなかには、家ではあえてデカフェ派という方もいらっしゃいます」と深浦さんは言う。

実はデカフェは通常のコーヒー豆よりも手間とコストを要する。たとえば、取材時に並んでいたデカフェはグアテマラで収穫され、マウンテンウォータープロセスでカフェインを抜く工程を踏むために、一旦メキシコへ送り、処理された豆を再び輸送。酸味が際立たないように、かといって苦味が強過ぎない中深煎りを目指す。ミルクとの相性も抜群で、授乳中の女性やアスリートからもオーダーが絶えないとか。

当連載では、取材を終えると耳目に響いたコーヒー豆を連れ帰ることが恒例となっているが、この日購入したのはデカフェである。コーヒー好きの痒い所に手が届くようなエピソードを聞いて、ときには我が身を思い遣る。家に戻り、やや濃い目に抽出し、まずはブラックで楽しむ。カフェインレスなのに、コクの深さが広がることに驚いた。多くを語らないのに、相手をハッとさせる──“深浦流”の軽やかなマジックを堪能した。

◾️SHOP DATA
Coffee and Baked Ura (コーヒー&ベイクド ウラ)
住所:神奈川県横浜市神奈川区西神奈川3-1-2
電話:080-4158-5010
instagram:@coffeeandbakedura

◾️COFFEE DATA
焙煎度合い: 浅煎り〜深煎り
焙煎機:「Fuji Royal」半熱風式3kg
グラインダー:マールクーニック
抽出:ペーパー/ORIGAMI
種類:ブレンド(2種類)、シングルオリジン(3種類)、デカフェ(1種類)
器:ORIGAMI

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Takako Kabasawa

クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークやブランディングも行う。着物や茶の湯をはじめとする日本文化や、地方の手仕事カルチャーに精通。2023年に、ファッションと同じ感覚で着物のお洒落を楽しむブランド【KOTOWA】を、友人3人で立ち上げる。https://www.k-regalo.info/

Photo by Chika Okazumi

2002年よりフリーランスフォトグラファーとして開始。2010年~2017年までロサンゼルスと東京を拠点に活動。現在は、雑誌、広告、webマガジンなどで広く活動中。
Webサイト:https://www.chikaokazumi.net

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