「山田勇魚 作品展 -現代に甦る付喪神-」伊勢丹新宿にて8月16日から開催

8月16日~8月22日 伊勢丹新宿店 本館6階アートギャラリーにて、立体造形作家・山田勇魚(いさな)の個展「山田勇魚 作品展 -現代に甦る付喪神-」が開催される。
8月某日、ZEROMILE編集部石川は、展示予定の作品を製作中のアトリエに勇魚氏を尋ねた。

—付喪神(つくもがみ)—
長い年月を経た道具に魂が宿り、人をたぶらかす妖怪になるという民間伝承から生まれた概念で、室町時代の絵巻物にもその名が記されている。

山田勇魚氏は、付喪神をモチーフに立体作品を作り続けている造形作家だ。
代表作の「帰港シリーズ」は、沈没船に宿った付喪神が、クジラの姿となって故郷へと帰るストーリーを表現している。陸で作られ港を出航し、海の底に沈んで帰れなくなった沈没船を、元々は陸上の哺乳類でありながら海での生活に適応し、陸に戻れなくなってしまったクジラ類と重ね合わせている。

帰港【マッコウクジラ】

「子供の頃、片付けないからといっておもちゃを捨てられ、泣き喚いたことがありました。その時、捨てられたこと自体がいやだ、という気持ちもあったのですが、どちらかというと、ものが可哀想、という気持ちが強かった気がします。その頃から、ものに対して人格を見出すようなことをしていたのかなと思います。」

付喪神というテーマにたどり着いたきっかけをたずねると、勇魚氏はそう語った。

彼の手によって付喪神の魂を付与されるのは、人間の手を経て、壊れたり捨てられたりしたものが多い。海岸の漂着物を使った「漂流シリーズ」は、ペットボトルのフタなどの人工物がカモメの中に入っている。

漂流シリーズ

初めて勇魚氏の作品を見た時、もの悲しさと、微かな罪悪感のようなものが湧き上がった。人間と人工物が生態系を破壊している事実に対する後ろめたさだ。

「基本的に僕は、自分の作品で善だの悪だのを語るつもりはありません。飽くまで付喪神がテーマなので、人間が使った道具に魂が宿る、ということを表現している。でもそれをどう受け取るか、というのは、その人が今どういう心持ちで”もの”と接しているのかが映し出される。鏡のような作品ですね。」

「付喪神の物語自体も、元々は、道具は100年たつと魂をもって悪さをするから、定期的に捨てようねっていう迷信が発端なんです。推察するに、同じものをずっと使い続けると経済が回らないから、定期的に新しいものを買わせるために考えられたんじゃないかと思うんですが、僕は逆に、ものに愛着があるからこういう作品を作っています。こんな風に、時代によって同じ物語でも受け止められ方が違うのだから、人によって見え方が違うのは当たり前だと思うんです。」

「帰港シリーズ」を型から外すところを見せてもらった。
シリコンと樹脂で作られた型は、つくるのに数ヶ月を要するそうだ。

マーシャル諸島からの帰港

「戦艦・長門(ながと)を知っていますか」

全長40cmほどあるだろうか。海そのもののようなブルーのザトウクジラを指して勇魚氏が言った。その指はクジラの体内に沈む船を指している。

作品名:帰港【ザトウクジラ】
撮影:大城喜彬

長門は、マーシャル諸島・ビキニ岩礁に沈む日本軍の戦艦だ。1920年(大正9年)の完成当時、世界最大と言われ、広く国民に知られていた。太平洋戦争終戦後、アメリカ軍に接収され、1946年ビキニ岩礁での核実験にて撃沈。現在も海底で眠っている。

「この作品は、実際に沈んでいる長門の写真資料を確認しながら模型を配置しました。中に入っている砂も、マーシャル諸島の砂を使っています。」

通常は砂を持ち出すことは不可能なところを、特別なルートで入手したそうだ。

「通常の帰港シリーズは中に船の模型を入れるだけなのですが、今回の長門のように、位置や造形などの背景までしっかりと調べて作品にするというのは初めての試みでした。模型を作ってくれた方や、資料や砂を提供してくれた協力者がいなければ作れなかった作品です。」

価格は、同じ原型から制作される通常の帰港シリーズの価格が180万円(2023年8月現在)、今回のマーシャル諸島仕様の”帰港【ザトウクジラ】”は720万円となるそうだ。

「実はこの720万にも意味があります。ビキニ岩礁での核実験の際、危険区域の外で漁業をしていた日本の船団が被爆した事件があります。中でも、死者が出たこともあり、第五福竜丸は大きく取り上げられました。アメリカ軍は直接の死因ではないと否定しましたが、日本国内で騒ぎになったため、アメリカ側は日本に、賠償金としてではなく、”善意のお見舞い金”として200万ドルを支払いました。当時(1955年)の日本円にして、7億2000万円。その数字になぞらえています。」

今後は、通常の帰港シリーズと並行して、より作品の意味や背景と向き合ったシリーズも展開していきたいと意欲を覗かせた。

作品展の見どころ

今回の作品展では、先ほど紹介したマーシャル諸島仕様の”帰港【ザトウクジラ】”の他にも、新作のシリーズを含む60~80点ほどを展示予定だという。

「標本箱シリーズ」
海岸で収集した漂着物を白く染め、骨格標本のようにして木箱に収めたシリーズ。
「漂流シリーズ」で漂着物を収集していた際に、標本を採集する行為と似ていると感じ、ひらめいたそう。それまでは単品ごとに使っていたものを、パズルのように組み合わせることで複合的に意味を持たせている。透明樹脂に溶け出した白い塗料が、ものに魂が宿った瞬間を表しているかのようだ。

「ヤニガラスの営巣」
タバコの吸い殻が練り込まれたカラスと巣。時代とともに生息地を追われた喫煙者が、人目のない街角に捨てた吸い殻に宿った付喪神だ。彩度のないモノトーンがアスファルトを思わせる。

この他、モササウルスとスーパーファミコンを組み合わせた「サバイブシリーズ」、ワイングラスに風景を閉じ込めた「記憶シリーズ」なども展示予定。
物販としては、作品集が販売される。

組み合わせの共通点など、勇魚氏の視点の面白さを味わえる作品展。ぜひ自分なりの意味や解釈を見つけながら鑑賞してほしい。

山田 勇魚
立体造形作家

主に樹脂や古道具を素材として扱う立体造形作家。古くなった道具に魂が宿るとされる民間伝承「付喪神(つくもがみ)」をテーマにしたジャンクアートや、沈没船がクジラの姿となって母港に帰る姿を表現した樹脂注型作品を制作している。

山田勇魚 作品展 -現代に甦る付喪神-
会期:2023年8月16日~8月22日
会場:伊勢丹新宿店 本館6階ギャラリー
オフィシャルウェブサイト:https://yamadaisana.com/

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Orie Ishikawa

ZEROMILE編集担当。 歴史、文学、動物、お酒、カルチャー、ファッションとあれこれ興味を持ち、実用性のない知識を身につけることに人生の大半を費やしている。なんでもかんでもチンパンジーに例えて考える癖がある。

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