レトロモダンな旧邸で日本茶の奥深さを堪能できるカフェ「Salon de KANBAYASHI 上林春松本店」


京都市東山区のランドマークとして知られる「八坂の塔」。そばの小路を観光客が行き交うなか、門の奥に目立たず佇む建築物がある。名称は、「AKAGANE RESORT KYOTO HIGASHIYAMA 1925」(アカガネリゾート京都東山1925)。大正14年(1925年)に建てられた邸宅を活用して、21世紀に誕生した複合施設である。レストランやウエディング会場などを擁する700坪の敷地は、緑豊かな庭園と併存し、閑静なたたずまいを演出する。

その中にあって目を引くのが、両側に窓をしつらえた白亜の建物。それが、今回紹介するカフェ「Salon de KANBAYASHI 上林春松本店(サロン・ド・カンバヤシ)」だ。

宇治の老舗茶舗とのコラボレーションで誕生

「Salon de KANBAYASHI 上林春松本店」は、上林春松本店のプロデュースによりは、上林春松本店のプロデュースにより2015年に開業。もとは私邸に隣接する蔵を改修したもので、当初は「蔵カフェ」という名で営業していた。

今の店名に変わったのは、「上林春松(かんばやししゅんしょう)本店」とのコラボレーションがきっかけとなる。同店は、安土桃山時代に上林家が創業した宇治の茶舗。上林家は、それより遡る室町時代には、御茶師として有力者に仕えてきた名家である。他方、ペットボトル茶「綾鷹」の監修を務めたように、進取の気質に富み、伝統にとらわれない企業としての側面も併せ持つ。

総支配人の松岡直哉さんは、リニューアルオープンのいきさつを次のように説明する。
「上林春松本店さんは、お茶を日本の大事な文化として将来へつないでいきたいという強い願いをお持ちでした。家庭では、急須でお茶を飲む習慣が廃れつつあるなか、茶葉の風味を最大限に引き出す淹れ方で、その魅力を発信したいと店を立ち上げたのです」

隠れ家的な雰囲気に満ちた空間

店に足を踏み入れると、そこは半ば吹き抜けの2階構造になっていて、両階に数席ずつテーブルと椅子がある。天井からは、ブロンズ色に輝く球体が寄せ集まった照明が、あたりに柔らかい光を投げかけている。

「AKAGANE RESORT」の「アカガネ」というのは銅を意味する。かつてここが銅の加工会社社長の私邸であったことから、敷地内のいたるところに銅色や青銅色のインテリアが散りばめられているのだ。

天井はガラス張りになっていて、その向こうに棟札(むなふだ)が見える。棟札とは、家運長久を願って建築時に棟木(むなぎ)に打ち付けた木の札のこと。普段はあまり見る機会はないため、初来店のお客さんは珍しがって見入るのだそうだ。

もとは蔵だけに、けっして広くはないし、採光もあまりない。だが、これがネガティブな雰囲気を与えることはなく、むしろ隠れ家的な落ち着きをもたらしてくれる。

日本茶の奥深さを再認識

窓際の席についてメニューを見ると、トップには高級茶である玉露の1品種「瑞玉(ずいぎょく)」があった。さっそく注文すると、盆に載せた茶器が運ばれてきて、淹れ方の説明を受ける。茶葉は、小さな金属の容器に入っており、まずこれを急須に入れる。ポットの湯は、いったん湯冷ましに入れ、少し温度を下げておく。適温となったら急須に移し、3分間蒸らしておく(その時間を計る砂時計もある)。そして、小さめの湯呑みに淹れる。一連の所作はべつだん難しいものではないが、ちょっとだけ緊張する。

茶を口に運ぶ。味より前に高貴な香りを感じ取り、かすかな緊張感を解きほぐす。最初の一口目の味は、意外にも「旨味」だ。ある種の高級茶は「出汁(だし)の味がする」と言うが、まさにそれ。とはいえその風味は、出汁よりはるかに繊細で複雑だし、なんといっても優しい。

「2杯目は、また異なった味を体験されると思いますよ」と言われ、思わず期待。淹れる手順は同じだが、最後だけがちょっと違う。最後の一滴まで出す勢いで、直角に傾けた急須を振るのだ。

こちらは茶葉本来の味が主張されていて、心地よい苦味も感じる。普段飲んでいるお茶とは別次元の体験だ。

ちなみに店のメニューは玉露だけでなく、種々の煎茶、コーヒー、アルコール類、洋風デザート、さらには豪華な「五段重アフタヌーンティー」もある。特に、季節替わりのパフェは見た目も美しく、甘党でなくとも食指が伸びる一品。

緑深い庭園に外の喧騒を忘れる

さて、お茶を堪能したところで店を出る。敷地内を見渡すと、銅が酸化してできる緑青(ろくしょう)色のテーブルや壁面がワンポイント的に配されている。

カフェの真向かいには、大正期の邸宅をレトロモダンに改装した大きな建物がある。エントランスを入って右手が貸し切り可能な貴賓室で、左手が100平方メートルのバンケットルームとなっている。

この建物を通過すると一転、草木が鬱蒼と茂る庭園に様変わり。特に新緑の芳しいこの時期は、もう1つの主役と呼べそうなほどの存在感を放っている。樹々の葉の天蓋が小道に影を投げかけ、石灯籠がぼんやりと光を放っている脇を、小川が縦貫している。塀を隔ててすぐ外の喧騒を思えば、異境に迷い込んだかのような感覚をおぼえた。

訪れる目的がカフェでの喫茶だけであっても、庭園は自由に散策できるし、貸し切られていなければ貴賓室などの見学もOKだ。「旅の途中に、ふらりと立ち寄られるのも歓迎ですよ」と、スタッフの心遣いも嬉しい。東山区の観光の際は、疲れを癒すとっておきのスポットとして、チェックしておくといいだろう。

Salon de KANBAYASHI 上林春松本店
住所: 〒605-0828京都市東山区下河原通高台寺塔之前上る 金園町400番1 AKAGANE RESORT KYOTO HIGASHIYAMA 1925内
営業時間: 11:30~17:00
定休日: 火曜日。土日祝はウエディングにより利用不可なことあり。
ウェブサイト: https://www.salondekanbayashi.com
Instagram: @salon_de_kanbayashi

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Takuya Suzuki

老舗翻訳会社の役員を退任後、ライター、写真家、ボードゲームクリエイターとなる。神社仏閣・秘境めぐりをライフワークとし、撮った写真をInstagramに掲載している。@happysuzuki

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