続々あらわれる「すごいロゼ」が世界を席巻! 桜とのペアリングはいかが?

「ワインはいまロゼがトレンド」という話は、もう何年も続いている。しかもフランスを中心に、世界中からこれまでの常識を覆すようなロゼが続々登場して、こうなってくるともはやロゼワインはトレンドだけでは片付けられないワインの一大勢力と言って良い状況だ。もしも最近、ロゼに触れていないなら、そろそろアップデートしてみませんか?

コートダジュールの風

「桜を見ている人はみんな笑顔だ」と言われたことがある。ほとんど白から赤紫まで、色とりどりのピンクの花はなんで人を笑顔にするのだろう?
ピンクの液体をグラスに注ぐときに、ふと笑顔になっている自分に気づいて、そんなことをおもってしまう。

惜しむらくは私が日本人だということだ。というのも、世界中のワインが集う日本のワイン市場は、ロゼにだけは消極的なのだ。その理由には諸説あるけれど、よく聞くのは、ロゼワインの名作「マテウス ロゼ」でロゼワインを知った日本人が多く、それが甘口だったことから、日本人にはロゼ=甘いという先入観があって、どうも盛り上がらない、というものだ。

マテウス ロゼ
オープン価格(参考価格 1,060円 / 750ml) 輸入元 サントリー株式会社
1942年創業のポルトガルを代表する名門ソグラペ社がつくるほのかな甘味と微発泡性をもつ爽やかなロゼワイン。品種はバーガなど。日本のみならず英・米をはじめ世界百数十ヶ国で愛されるロゼワインの定番のひとつ

だから、英語版でこの記事を読んでいる読者は吹き出すかもしれないけれど、まず言っておく。ロゼワインとは甘いワインを意味しない。マテウスだって、確かに甘口ではあるけれど、私の感覚では、そんなに甘くない。

それに考えてもみて欲しい。たしかにマテウスはポルトガル生まれだけれど、ロゼワインという液体のホームはプロヴァンスなのだ。青い空、青い海、眩しい太陽! ロゼワインは、そこに吹く心地よい風のようなものだ。

甘くあろうがなかろうが、このピンク色の液体は、明るくて、爽やかで、チャーミングだ。

ロゼワインの新しいトレンド

その上で、ちょっと詳しい話をしよう。

ロゼワインは現在、ブームである。
世界のワイン生産量は、パンデミックや気候変動、社会情勢の影響で浮き沈みはあるものの、長いタームで見れば、そこまで劇的に変化しているわけではない。ロゼワインの生産量も、この20年程度、2300万ヘクトリットル程度で安定していて、そんなに増えていない。にもかかわらず、ロゼワインは消費が伸びているのだ。つまりロゼワインは高級化しているし、売れ残っていない。

ブームを牽引しているのフランスで、生産量も消費量もトップ。そこにアメリカが追随している。フランスでは、ワインが3本売れれば1本はロゼ、という状況が到来して久しい。世代でいうとミレニアル世代、Z世代に売れている、というのも特徴だ。

これまで、どうしても、低~中価格帯で、ワイナリーのランナップ内でも添え物的な扱いを受けていたロゼワインが、化けている。

なぜか? このチャーミングなピンクの液体がInstagramを問答無用でステキにするからなのか? ヘルシー・ナチュラルブームに合致したのか? それらしい理由はいくつもあるけれど、ひとつの象徴的な事件とされがちなのが、2013年に登場した「ミラヴァル・ロゼ」というロゼワイン。

ミラヴァル・ロゼ
希望小売価格:4,600円/ 750ml 輸入元 ジェロボーム株式会社
サンソー、グルナッシュ、シラー、ロールというプロヴァンスならではのブドウを使う傑作ロゼ。現在は、複数のワインをリリースしているミラヴァルの中核となるワインで、美しく淡い花びらのようなピンク色の液体からは、新鮮な果実と春の花々のアロマが溢れ、フレッシュな酸と素晴らしいミネラルを備えた味わいは、塩味を感じるフィニッシュへと続く

初回生産の6,000本はわずか5時間で完売。同年、世界のワインの価格を左右する『ワインスペクテイター』誌でトップ100入りした唯一のロゼワイン。これを生み出すワイナリーのオーナーは、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー。ワイン造りを担当したのは世界的名産地シャトー・ヌフ・デュ・パプでも最高峰の評価を受けている「シャトー・ド・ボーカステル」を所有するペラン・ファミリー。さらに、ブドウはオーガニック栽培。除草剤や殺虫剤を含む、化学薬品は一切使用しない……

ミラヴァル・ロゼは時代に愛される要素しかない隙のないワインだった。いや、現在もミラヴァルというブランドには隙がない。そしてこのワインの登場は、ロゼワインが変革していることを高らかに世に知らしめた。

そこから10年。
1.セレブリティに愛されている
2.腕利きのワインメーカーの渾身の作品
3.ナチュラル・サステナブルである

言ってしまえばこのパターンが現代のロゼワインのひとつの定石となった。というか、これは私の造語だけれど「ハイエンド ロゼワイン」ともいうべき、ひとつのジャンルが確立している。

ロゼにここまでするか!?

LVMHが、2020年ごろに、相次いでプロヴァンスのロゼワインメーカーを傘下に収めたことは、このハイエンド ロゼワイン説のひとつの論拠になると考えている。

つまり、特異点的なロゼワインがたまたま瞬間的にいくつかあったのではなく、ラグジュアリーブランドの扱いを得意とし、ワイン文化の庇護者でもある巨大コングロマリットが、自分たちが扱うべきものと判断するほどの変革がロゼワインにおきたのだ。

現在、LVMH傘下にあり、とりわけ象徴的だと感じられるワイナリーが「シャトー デスクラン」。
このワイナリーは、20世紀初頭にアメリカにボルドー、ブルゴーニュのワインを紹介したロシア出身のワインの専門家、アレクシス・リシーヌの息子、サシャ・リシーヌが、「ロゼを偉大なワインにする」という野心を持って2006年に手に入れた。この際、ボルドーのシャトー ムートン ロスチャイルドで長年、醸造家として腕をふるった伝説的醸造家、パトリック・レオンをコンサルタントに招いた。

ワイナリーの建物は、19世紀に建てられたトスカーナのヴィラ風シャトー。しかし内部は理想とする偉大なロゼワインのためにあつらえた、最新設備になっている。

所有する広大な敷地は伝統的なブドウ産地だけれど、現在はフランスのHVE認証レベル3という最高峰の環境認証を得ていて、その3分の1ほど(それで140ha!)をブドウ畑としている。その果実は、人の手で優しく収穫され、粒を人と機械が厳選。意図せぬ力や酸化、温度変化でブドウの質が下がらないよう、徹底的に管理された環境で優しく搾った果汁を、ブドウ栽培区画やブドウ樹の樹齢、品種によって分けて醸造し、途中テイスティングを重ね、最後にブレンドして仕上げる、というスタイルを徹底している。

つまり、あたかもシャンパーニュのような造り方なのだ。ただ、シャンパーニュはシャンパーニュであるだけで、手をかければかけた分だけ戻ってくる、というのか、ワイン業界最高峰の値段で売れる見込み値は高いわけだけれど、一方、カテゴリ的には最底辺とすら言えるロゼワインでここまでやる、というのは21世紀初頭では、かなりチャレンジングだったはずだ。

とはいえ、ワインの法王とまで呼ばれた人物を父親にもつサシャ氏には、成功が見えていたのか。ロゼワインの常識からしたらありえないほど高級(といっても1万5千円くらい)なワインもリリースしているけれど、批評家たちはこれを、世界トップクラスのワインと比肩するとまで称賛している。
特にアメリカではハイエンド ロゼワインブームの火付け役的な存在になった。

シャトー デスクラン ロック エンジェル
希望小売価格:4,455円(税込み)/ 750ml 輸入元 MHD モエ ヘネシー ディアジオ株式会社
シャトー デスクランのプレミアム ロゼ ワインのひとつ。「石の天使」という名前の通り、火打石のようなミネラル感と樽熟成によるクリーミーなテクスチャーが特徴。うま味のある香りと、刺激的な酸味は、終盤にかけてほんのりと甘いニュアンスを伴いながらキレが良い。前菜からメイン料理、フルーツやデザートまで、なんでも来いの万能ロゼ

手頃なロゼも変わっている!

頂点が高くなれば裾野も広がるもので、世界的に、ロゼワインはここ数年、プロヴァンス以外の造り手側からも見直されている。だから市場には手頃な価格でも充実した体験ができるロゼワインが増えている。

ロゼワイン選びの際に外さないコツは、先ほど挙げたハイエンド ロゼワインの3要素
1.セレブリティに愛されている
2.腕利きのワインメーカーの渾身の作品
3.ナチュラル・サステナブルである
をどの程度踏襲しているかがアテになるとおもう。

価格の低いものですべて踏襲するのは難しいけれど、たとえば、ボルドーの「ムートン ・カデ」がリリースしているオーガニックのロゼワインは、ロスチャイルド家という世界トップのセレブリティと、シャトー・ムートン・ロスチャイルドというボルドー最高峰のワイナリーが背後にあり、かつ、オーガニックなのでバッチリだ。

ムートン・カデ・ロゼ・オーガニック 価格:2,200円(税込)
メドック格付け第1級シャトーを所有するバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドが、本拠地ボルドーで手掛けるカジュアルワイン『ムートン・カデ』のロゼ。オーガニック及びヴィーガン認証を取得しているこのワインのラベルには、アンバサダー マチルド・セレイス・ド・ロスチャイルドさんを指す「✕ Mathilde」の文字がある。マチルドさんは、バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社の会長・フィリップ・セレイス・ド・ロスチャイルド氏の娘さんというセレブ!

最後に、山が高くなったことで日陰になっている感があるのだけれど、ロゼにはもうひとつオススメがある。ロゼワインにはいくつか造り方があって、そのうちで「セニエ」という方法がある。セニエは、赤ワインを造る時に、その上澄みの薄いところを取り除いてワインを濃くする赤ワイン造りのテクニックなのだけれど、これをやっている地域では、この取り除いた部分をそれはそれでワインにすることがある。そうするとロゼワインができる。例えば、日本はロゼワインが売れないと言いながら、セニエは結構やっているので、日本ロゼワインは実は多い。これが、本体ともいうべき赤ワインほど濃くないので飲みやすいし、本体の赤ワインがリリースされる前に、先出し的に味わえる、という面白みもあって、気軽に飲むにはかなりオススメなのだ。もしも日本でワイナリーに行くことがあれば、「ついで」くらいの気持ちでもいいので買ってみて欲しい。

そもそもロゼは「南仏の心地よい風」なので、温度、グラス、合わせる食事にこだわらなくても美味しく飲めるし、シチュエーションはなんでもいい。日本のワイナリーはたいてい自然豊かなところにあるから、風景に合わせるもよし、夕日に合わせるもよし、桜の花にあわせるもよしだ。

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Fumihiko Suzuki

東京都出身。フランス パリ第四大学の博士課程にて、19世紀フランス文学を研究。翻訳家、ライターとしても活動し、帰国後は、編集のほか、食品のマーケティングにも携わる。2017年より『WINE WHAT』を出版するLUFTメディアコミュニケーションの代表取締役。2021年に独立し、現在はJBpress autographの編集長。

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