楽しみながらブレンド日本酒がつくれる、京都の体験型施設「My Sake World 御池別邸」

少人数の個室で日本酒を呑む……こう聞くと、なんだか敷居が高そうなイメージがある。

ふだんは酒と縁遠い筆者が、今年1月にオープンした「My Sake World 御池別邸」を訪れたときは、まさにそんな心持ちであった。おそらく、相席するのは酒の通ばかり、応対する店主も当然、酒には一家言をもっている。その中で一人恐縮する自分……。

そんな不安は、着座して数分で雲散霧消する。高い天井で、自然光が間接的に入る店内は陽の気に満ち、カウンターの向こうの女性スタッフも明るく挨拶を返してくる。一見さんお断り的な雰囲気は微塵もなく、思わず相好を崩した。

呑む前に日本酒の基礎を学ぶ

内外からの観光客が行きかう京都市の一大繁華街、烏丸御池(からすまおいけ)。そこから少し離れた閑静な通りに、古民家を改装した「My Sake World 御池別邸」がある。店名の語感から、えりすぐりの日本酒が飲める高級居酒屋という印象を持たれるかもしれない。が、ユニークなコンセプトから誕生した“体験型施設”と表現したほうがふさわしい。

そこで体験できるのは、日本酒のブレンド。ワインやウイスキーのブレンドは昔からあったが、日本酒ではまだ珍しい。しかも、ここが提供するのは単にブレンドした酒ではない。自分でブレンドしたオリジナルの酒をつくることができるのが、この店の最大の特徴である。

その仕組みを、順を追って話そう。まず、スタッフから日本酒の解説を聞く。日本酒の原材料から始まって、酒造の歴史、吟醸酒や純米酒といった分類法など、図解で基礎的な知識を教わる。酒は、「日本人の精神性に基づいた大切な文化」であることも改めて認識する。

まずは12種の酒を呑み比べ

解説が終わったら、ブレンドの対象となる12種類の酒の試飲が始まる。それぞれが小さな透明容器に入っており、スタッフから個々の銘柄の説明を受けながら、少量ずつ飲んでいく。

1種類ずつ風味を確認するたびに、シートに短い感想を書いていく。どの酒も独自の個性があり、それを言語化すればいい話だが、これが意外と難しい。手元の資料には、「熟れたバナナ、いちじくの穏やかな香り」などと書かれていて、そうした表現に引っ張られそうになる。でも、ここは考えすぎる必要はなくて、自身の感性を信じて思い浮かんだ言葉を記せばいい……はずだ。

実験するような感覚で楽しくブレンド

12種類全部の試飲が終わったところで、いよいよブレンドを行う。これは、気に入った4種類をピックアップして、総量が40mlになるように組み合わせるというもので、2回までトライできる。そのために使うのは、かつて小学校の理科室で見た記憶のある容器たち。

まず、細長いシリンダーで正確な分量の酒を計量し、三角フラスコに移す。4種類ともフラスコに入れたら、ゆるやかに20回振る。この一連のプロセスがなんか楽しい。ブレンドが完了したら、グラスに注いでじっくりと味わうだけだ。

筆者は、「石鎚 純米大吟醸 さくらひめ」を15ml、「田友 特別純米」を15ml、「抱腹絶倒 純米酒」を5ml、「2013ヴィンテージ 純米酒」を5mlという組み合わせで決めた。シンプルに旨くて凛とした風味の酒2種をベースとし、かなり個性派の味を少しだけミックスしたのだが、このへんの匙加減は完全にフィーリングである。

吞むだけでないエンタメ要素がいっぱい

できたばかりの、自分だけのブレンド酒を呑んでみる。何かの花を想起させる爽やかな味のなかに、複雑で熟成した余韻を舌が感じとる。我ながら悪くはないと思う。ブレンドには唯一の大正解はないし、致命的な間違いというのもない。要は自分がおいしいと思うか否か、それが大事。

こうして自らつくったブレンド酒は、200mlのボトルに詰められ、約1か月して自宅に送られてくる。追加注文も可能で、オリジナルのラベルを貼った720mlとすることもできる。自分用だけでなく、親しい人への贈答などに使うと喜ばれそうだ。ほかに「日本酒ブレンダー認定証」が発行されたり、「オリジナルレシピNFT」をいただいたりと、エンタメ感が満載。なお、認定証に記載されている番号は、専用サイトに入力すると後日からでもブレンド酒の追加注文が可能だ。

【My Sake Original Bottle】200ml

「My Sake World」の運営会社、(株)リーフ・パブリケーションズの向山純平さんによれば、ブレンド酒に注目したのは、コロナ禍の頃だという。巣ごもり消費で日本酒の販売量が落ち、「打開策となる新しいことを」という掛け声で、地元京都にある酒蔵『増田德兵衞商店』『北川本家』『松井酒造』がコラボしたブレンド酒「Assemblage Club(アッサンブラージュクラブ)」を生み出した。これが、「国際的な賞を受賞するなどご好評をいただいた」ことで、ブレンド日本酒で何かできないかと考え、「My Sake World」の立ち上げに至ったそうだ。オープン半年足らずで、1回で4人限定にもかかわらず、800人を超える来店があり、満足度も非常に高いとの声が寄せられている。単に呑むだけでなく、プラスαの面白さに満ちたこの施設、一度は訪れる価値はある。

My Sake World 御池別邸
住所: 〒604-8084 京都府京都市中京区姉小路通富小路東入る福長町123
営業時間: 11:00~12:30、13:30~15:00、16:00~17:30、(土日祝のみ)18:30~20:00
定休日: 不定休
ウェブサイト: https://sakeworld.jp/special/2411-kyoto-mysakeworld-oike
Instagram: @mysakeworld

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Takuya Suzuki

老舗翻訳会社の役員を退任後、ライター、写真家、ボードゲームクリエイターとなる。神社仏閣・秘境めぐりをライフワークとし、撮った写真をInstagramに掲載している。@happysuzuki

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