国立新美術館で11月1日から開催の「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」に先駆けて、10月31日におこなわれたプレス向け内覧会の様子をレポートしたい。
©国立新美術館
この日は火曜で休館日だったのだが、内覧会のため特別に入ることができた。普段の館内は照明で明るくクリーンなイメージだが、最低限の照明が灯されている館内は大きな窓から自然光が入り、いつもよりナチュラルな印象で、知り合いのすっぴんを見た時のような親しみを感じた。
今回の展示会場である企画展示室2Eは2階にあるので、エスカレーターで2階に上がる。
光と影が満ちた空間
入り口を入ってすぐに、細長く薄暗い空間を壺のようなものが照らしているのが見える。一歩、また一歩と近づくたびに、作品の巨大さをじわじわ実感する。光と影が作る模様が、壁や床にゆっくりとゆらめいている。
『Gravity and Grace』(重力と恩寵)という作品だ。巨大な壺は視覚的に重量感を与えるが、それと同時にレースのようなカッティングは軽やかさも持ち合わせている。そして壺の中を上昇する光源は、恩寵そのものかのように空間を照らし、影絵のように周囲に模様を描き出す。光源が壺の中を上昇すると、周囲の模様は拡散するように、下降すると吸い込まれていくように見える。
足元には、詩人・関口涼子氏の言葉が啓示のようにところどころに散りばめられている。黒い床に黒で書かれていて、光の加減で浮かんでは消える。
大巻氏のドローイング
今回の展示では、インスタレーション作品だけでなく、スケッチやドローイングなども見ることができる。こういう手書きのノートやメモなどは、アーティストの頭の中をのぞいているようで楽しい。壮大な作品も、ある日突然できあがるわけじゃないということがしみじみ感じられるし、同じ人間なんだなと一方的に親近感をいだく。
先ほどの『Gravity and Grace』の構想が描かれたノート
『影向の家』のためのドローイング
気配の波
今回の展示で、私がいちばん好きな作品は『Liminal Air—Space 真空のゆらぎ』という、広大な暗闇に布がたゆたう作品だ。
薄く光沢のある布が、部屋一面に妖しくうごめいている。微かな光を反射しながら重なり合い、不思議な模様を浮かべては消える様子は、波のようでもあり、煙のようでもあった。ただ時間を忘れ、自分自身も波の中に溶け込んでゆったり漂っているような感覚をたっぷり味う。この状態が「真空」なのだろうか。
部屋を出る頃には、頭がすっきりして、感覚の鋭さを取り戻したような気がした。
大巻氏がその作品を通して探究する「存在するとはいかなることか」という問いを思い浮かべながら作品を鑑賞すると、つかめそうでつかめない「何か」がふわふわと頭の中を漂っているのを感じる。それは作品にこめられたメッセージなのか、自分の中から湧いてくる言語を超えた感情なのかはわからない。
写真には動きまで映らないし、動画にしてもスケール感や気配などといった重要なことは捕らえられない。ついネットで見た物事を知った気になってしまうけれど、実際に体験しなければ得られないものの比重は、思っているよりもはるかに大きいのかもしれないと改めて感じた展示だった。
自分自身が何を感じるのかを確かめられるのもまた自分だけだ。この機会に体験してみて欲しい。
「大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ」
会期:2023年11月1日(水)〜2023年12月25日(月)
毎週火曜日休館
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室2E (東京都港区六本木7丁目22-2)
URL:https://www.nact.jp/exhibition_special/2023/ohmaki