ボトルネックに紙垂をあしらった神聖な顔立ちの「浄酎(じょうちゅう)」。
旅に出ると、その土地に根差したものへと気持ちがぐっとフォーカスされる。米と水を礎に、熟練の蔵人の経験と勘所が品質と味わいを左右する日本酒は、まさに風土の歴史と旅の余韻を物語る存在だ。ことに加熱せずに酵母の力で醸造する純米酒は、個性が際立つ日本独特のテロワールと呼べる。
1枚目:ナオライ代表の三宅絋一郎氏。
2枚目:起業後、最初に手がけたレモンのスパークリング酒「MIKADO LEMON」。
そんな日本酒の魅力をもっと広めたいと尽力してきた人物が、ナオライの創業者・三宅紘一郎氏だ。親族に酒造関係者が多かったことから、自然と日本酒に親しむ環境で育ち、在学中に上海へ留学。その経験を機に、中国での日本酒の販路拡大に奔走すること9年。ワインやウイスキーのように、日本酒がブランドとして確立されていない現実を目の当たりにした三宅氏は、帰国後、広島県呉市の三角島(みかどじま)で2015年に起業。日本酒の新たなブランド化に挑んだ。
1枚目:香りは日本酒、飲み口はウイスキーを思わせる「浄酎」。
2枚目:「神石浄溜所」は神石高原町に設立したナオライの最初の浄酎を生産する。
自然がもたらす豊穣への感謝の気持ち象徴する「直会(なおらい)」という風習を社名に掲げ、最初に注目したのは、三角島で育てた無農薬栽培のレモン。低温でピールから香りを抽出する技術により、究極のレモンのスパークリング酒を生み出した。「香りという目に見えない存在価値は日本酒も一緒。だからこそ、独自に辿り着いた低温浄溜®の技法は、日本酒にも応用できると考えました」と三宅氏。
1枚目:自然にしたたり落ちる水滴をイメージしたボトル。
2枚目:どの純米酒を用いたかを示す酒蔵カード。
広島県内の4箇所の酒蔵と提携し、神石高原に蒸留所を構えたのは2019年のこと。日本酒を35〜39℃という低温で圧力をかけ蒸留、純米酒の芳醇な香りの密度を凝縮した蒸留酒を目指す。試行錯誤を重ねること2年、米焼酎とも日本酒とも異なる革新的な「浄酎(じょうちゅう)」が2020年に誕生した。水滴をイメージした有機的なシルエットのボトルには、神域を表す紙垂(しで)をアクセントとして装飾。純米酒を用いたベーシックな「白紙垂」、樽で熟成させた「金紙垂」、樽熟成したものに自社の三角島で無農薬で栽培するミカドレモンの皮を漬け込んだ「黒紙垂」の3種類が揃う。
樽の素材は、日本の香木とも称される宮崎県の水楢材と国産のアメリカンオーク材。香りの経年変化が、今から待ち遠しい。
2025年には能登半島の中能登町にも浄溜所がオープンを迎え、酒蔵の復興の新風として期待が高まる。「最終的には浄溜所を47都道府県に設けることが目標。広島の黒紙垂ではレモンを加えましたが、それぞれの風土を象徴するフレーバーのバリエーションを作りたい」と三宅氏。ウィスキーのように炭酸で割ってよし、ロックで深い味わいを楽しんでもよし、水割りで繊細なフレーバーに酔いしれてもよし。日本生まれのギフトの新潮流としても注目したい。
焼酎でも日本酒でもない、第3の和酒の伝道師となった三宅氏。蔵人の高齢化で酒蔵が減少するなか、「浄酎」を通して日本酒業界の未来に一縷の光を見いだした。
写真提供:全てナオライ
ナオライ
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