恵比寿の「A10」が新たに仕掛ける和のレコードバー「盤天(Banten)」

2025年4月18日、またしても恵比寿にハイセンスな大人のためのバーがオープンした。その名も「盤天 (Banten)」。SNSをきっかけに人気となったレコードバー「A10」の系列で、店名は、レコード[盤]から奏でられる音色と、数多なる[天たる]中から厳選されたお酒を堪能できる空間という意味が込められている。

モダンに昇華された和

茶室にインスパイアされたというファサードは、初見では誰もが扉の方を開けようとしてしまうことだろう。だがここはA10の系列店。入り口には一癖あって、実は正面の壁の下部が開く。茶室のにじり口のように低い位置にあるので、出入りの際には要注意。

入り口をくぐると、4mもある天井まで高く積み上げられた和箪笥に圧倒される。明治〜江戸時代のアンティークを中心に、伝統的な木製家具や調度品が取り入れられたインテリアが空間に調和している。

古い薬棚の前で作務衣に身を包み、液体を調合するのは薬師…ではなく、ヘッドバーテンダー兼マネージャーの水野 尭介(みずの たかゆき)氏。

「系列店のA10とA9 は、海外のお客様からも人気があったことと、オーナーも日本酒を提供する場がほしいと考えていたこともあり、日本文化を感じていただける和をテーマにしたお店になりました」

五行思想に着想を得たコンセプチュアルなメニュー

五行とは、古代中国で生まれたとされる自然哲学の一種であり、万物は火・水・木・金・土の5つの元素から成っているという考えだ。東アジア全体に大きな影響を及ぼし、日本でも暦や風水、占星術など古くから文化の中に深く溶け込んでいる。

メニューにはこの五行の発想が取り入れられており、5つの元素が味わいを表している。例えば『水』の欄には、スッと水のように飲める日本酒やカクテル、『火』ならば、スモーキーさや辛味などの熱を感じさせるカクテルというように。

「まずは、『水』にカテゴライズされているものから飲んでいただくのがおすすめです。日本酒をちびちび飲みながらメニューをじっくり読んで、その日の気分にマッチする一杯を選んでもらえたらいいなと。」

メニューには、「気合いだ!」や「雨に濡れる森」など他で見たことのない名前のオリジナルカクテルが並ぶ。さらに材料をよく見ると、鯖やハバネロなど、およそ飲み物の材料とは思えないものが記載されている。

これらのメニューの監修を行なっているのが、『液体料理』を提供する京都の名店「nokishita711」のセキネトモイキ氏率いる液体料理一門だ。『液体料理』というのは、セキネトモイキ氏が考案した、あらゆる食材を料理のアプローチで液体としてアウトプットするというカクテルやミクソロジーの概念すら超越した新しいスタイル。

「例えばこの『ダーティスモーキー』というカクテルは、鯖を焦げ目がつくまでしっかり炙り、フレッシュパイナップル、京番茶を漬け込んだ麦焼酎、コーヒーリキュール、クミンを香らせたテキーラなどと合わせたものです。ベースという概念がそもそもないんです。」

説明されても味がさっぱり想像できないので、実際に飲ませていただくことに。

青魚を使った飲み物なんていったいどんな味なんだろう…おそるおそる口に入れると、まず甘酸っぱさがやってくる。飲み込む寸前にスモーキーな香りとほろ苦さ、最後にふわっとクミンの香りが鼻から抜ける。肝心の鯖は…というと、スモーキーな香りの中に確かにいる。生臭さや魚臭さはなく、出汁のようなうまみと香ばしさに昇華されている。

この他、A9のヘッドバーテンダー監修のカクテルや、カクテルの世界大会Diagio World Class 2025の日本Top 50に入賞した経験を持つ水野氏自身が監修するカクテル、山崎などの手に入りにくいジャパニーズウィスキーも揃える。

上質なサウンドが作り出す心地よさ

カウンターの壁に埋め込まれたスピーカーから流れるサウンドが、高い天井と壁に反響し、鼓膜を心地よく震わせる。スピーカーは往年の名機JBL 4344。インテリアとの調和を考え、あえてカバーを外している。アンプには、TRIODE社のハイエンド真空管アンプMUSASHIを使用するなど、実に贅沢なセットアップだ。柔らかくも迫力のある音が、グッと没入感を高めてくれる。

レコードコレクションは、JAZZを中心にSOUL、R&Bなど1200枚程度。DJがプレイするスタイルではなく、スタッフがその場の雰囲気に合わせて流すスタイルをとっている。

「和のレコードバーというと流す曲も邦楽だと思われるんですが、特に国は固定していません。レコードバー自体が日本で発展したものなので、日本のレコードバー文化の良さを伝えることが一番大切だと感じています。リクエストがあればマイケルジャクソンもかけますし、その場のお客様が楽しめるように心がけています」

カウンター8席という規模感も店全体で一体感が生まれやすい上に、バースタッフとの距離も近く、カップルでも一人でも訪れやすい居心地のよさがある。5名以上は貸切予約が必要なので、大人数のグループに圧倒されることもない。

「Martha」や「A10」などのレコードバーや、「BLUE NOTE PLACE」といったライブレストランなど、音楽の街として認識されつつある恵比寿。渋谷に比べて成熟していて、六本木に比べてカジュアルな、30〜40代の遊び場としてちょうどいい。

「飲食店の品質のアベレージが高くて、でもドレスコードがあるような、高級すぎる店ではない。イタリアン、フレンチがあるかと思えば大衆的な焼き鳥屋さんもある。日本に旅行に来た人に「恵比寿は1回行った方がいいよ」って言えるような街ですね。」

水野氏のいうように、恵比寿には遊び慣れた大人にこそ響く店がたくさんある。「盤天」も間違いなくそのうちの一つだ。駅からも近いので、食事の後のもう一軒にいかがだろうか。

盤天 (Banten)
住所:東京都渋谷区恵比寿南1-1-4 村田ビル5F
営業時間:19:00-3:00(年始定休日)
席数:カウンター8席
チャージ:ドリンク 1,200円(税別) / 1,300円(税別)〜
HP: https://banten.jp
Instagram:@banten_ebisu

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Orie Ishikawa

ZEROMILE編集担当。 歴史、文学、動物、お酒、カルチャー、ファッションとあれこれ興味を持ち、実用性のない知識を身につけることに人生の大半を費やしている。いつか知床にシャチを見に行きたい。

Photo by Ippei Fukui

ZEROMILE編集部カメラマン兼グラフィックデザイン担当。日々のクリエイティブワークを通じて培ったスキルを写真にも生かしながら腕を磨いている。

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