小原晩【たましいリラックス】vol.18 たましいバランス

心のバランスをすぐにくずしてしまうほうで、悪いことがおこったときはもちろん、良いことがおこったあとにもバランスをくずす。
気持ちが荒んでいるときは部屋が汚くなっていく、というのは有名な話だけど、心と生活は、まあたしかに、つながっているところがあるような気がしている。

だから、心のバランスがくずれたときには、まず生活をととのえる。

朝起きて、夜眠るようにする。三食自炊する。部屋を片付ける。洗濯をすます。SNSから意識的にはなれる。お酒をひかえる。すこし歩く。湯船につかる。ポテトチップを食べない。チョコレートにあまえない。カップラーメンをすすらない。自転車飛ばして揚げものを買いに行かない。仕事に関係のない本を読む。深呼吸をする。折を見てよいにおいを嗅ぐ。こたつで寝ない。ともだちや恋人にたよらない。日記をはじめてみる。

ここまでくればかなり心は回復している。
わかってきたのは早期発見が重要であるということだ。

すさまじく荒んでしまった心では、朝起きれない、昼ずっと眠い、夜起きている、日に六食食べる、部屋には洋服や紙、マグカップなどが散らばって、短い動画を見まくり、癒されるためにお酒をのんで、真横になっている。家のなかでからだに悪そうなものをたらふく食べて、気絶するようにこたつでねむり、からだを痛める、おなかをこわす、肌が荒れて、ばっこり太る。恋人のまえで泣く、ともだちのまえで愚痴ばかり、仕事相手と目を合わせることができない。なんにもかけない。

こうなってしまう。荒んだ心をすこし放置しただけでこうなってしまう。
おそろしいけれど、前者の生活は人生の一割に満たない。後者の生活は八割を超えている。どうしてこんなふうになってしまうのか、単純に、だらしがないからである。そして、後者の生活でもべつにいいだろう、それはそれでよろしい生活だろう、というひらきなおりも心のどこかにあるからである。とんでもないと思われるかもしれないがそういう人間もいるのだ。しかし心のバランスをとらなければ、とれるようにならなければ、そう遠くないうちに深くて暗い穴へ落ちる事はさけられないだろう。私はどうすればいいのか。前者の生活をすればよいのである。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。https://obaraban.studio.site

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