歌舞伎町のカオスを味わい尽くすアートナイト「BENTEN 2024」レポート

人口1000万人を超える大都市の東京はエリアによって文化や雰囲気が大きく異なる。私は渋谷エリアを中心にして生活してきたから、新宿歌舞伎町というのはちょっと隣の国に来たくらい落ち着かない。ゴジラヘッドで有名なTOHOシネマズ新宿で映画を見ることはあるけれど、見終わったらそそくさと駅のほうへと引き返してしまう。無数のネオンに好奇心はうずくが、キャバクラやホスクラには行く用事がないし、まわりに歌舞伎町に詳しい友人もいないので、いつもビビって踵を返してしまうのだ。

11月2、3、4日の3夜にわたり歌舞伎町で開催されたアートナイト「BENTEN 2024」は、歌舞伎町の路地裏やバーなどに散在する会場を回遊しながらアートやパフォーマンスを鑑賞するイベントだ。こんな機会でもなければ知ることのない世界に触れるべく、プレスツアーに参加してきたのでレビューしたいと思う。

異世界への入り口:王城ビル

築60年の昭和バブル期を思わせるお城を模した建物「王城ビル」が今回のイベントの拠点だ。
1階は「アー横」と題され、アーティストやアートコミュニティが集まり、飲食やパフォーマンス、物販を展開するアーティスト横丁としての空間が広がっていた。
2階・3階は「チェン・ティエンジュオ ソロ・エキシビション」が開催されており、インドネシア・ラマレラ村の捕鯨から着想した儀式の公演映像や、巨大なクジラの立体作品が展示されていた。11月2日、3日にはチェンとパフォーマーのシコ・スティヤント​​が各日にゲストを迎えた特別なパフォーマンスを「新宿歌舞伎町能舞台」で実施。

チェン・ティエンジュオ ソロ・エキシビション 展示風景 

4階はグループ展「地獄の使者」で、増山士郎、八谷和彦、会田誠、岸本清子ら新宿にゆかりのあるアーティストの記録映像や作品が展示された。5階は小さな映写室のようになっており、遠藤麻衣による映像作品《オメガとアルファのリチュアル》を上映。美術館でのヌードパフォーマンスを映したもので、芸能と芸術の境界を問いかけているかのような内容となっていた。

「地獄の使者」 展示風景 

王城ビルの剥き出しのコンクリートや退廃的な雰囲気がどの作品ともマッチしていて相乗効果を生み出していた。キッチンカウンターがそのまま残るフロアや建物の古びた匂いは、滅びた昭和という文明の遺跡に足を踏み入れているかのようだった。

王城ビル 内部

歌舞伎町の営みとクロスオーバーするアートナイト

別の会場であるアートバー「デカメロン」はTOHOシネマズのすぐ脇の路地にある。ここでは、「プライベート・スーパー・スターリー・ナイト」として、フォトグラファー須藤絢乃が撮影したゆっきゅん×君島大空のコラボレーション楽曲のポスターの展示がされていた。また、すぐ近くのスナックの店舗跡のような空間にも岡田裕子による「おちる」「いのる」という音声作品が展示されていた。QRコードを読み取るとArtstickerアプリを通して流れる岡田のナレーションとともに歌舞伎町を聴き歩くという体験だ。

この路地がまた怪しげで、シーシャバーや占いなど不思議な店がひしめき合っており、ここが日本で今が2024年だということもわからなくなってしまいそうな光景が広がっていた。近くを通ったことは何度かあったが、このようなきっかけがなければ決して足を踏み入れることはなかった路地だろう。

また、かつてアーティスト会田誠が立ち上げたと言われる、アートバー「東京砂漠」も同様に路地裏にあり、すぐ隣にはネズミ肉を扱う料理屋があったりと、かなりディープな世界を垣間見ることができる。また、店内に辿り着くまでの階段が恐ろしく危険で、客がしょっちゅう落ちることでお馴染みなのだそうだ。ところどころ段が手前に傾斜していたりするので、手すりにしっかり捕まりながらボルダリングのように登らなければならない。
2Fで賑わうバースペースを横目に、やっとの思いで3Fで登り切ると小さなホワイトキューブに、トモトシによるシリーズ「強迫性保留プラン」​​の立体作品が展示されていた。

次に訪れた「新宿歌舞伎町能舞台」も衝撃的だった。いかにも昭和のマンションという感じの古びた建物の中にあるのだが、能舞台の入り口へは、なんとマンションの共有ゴミ捨て場を通らなければならないというカオスな造りになっている。

舞台上には複数枚のスクリーンが重なって置かれており、渡辺志桜里、安田登、加藤眞悟、ドミニク・チェンによる新作能「射留魔川」が、安原杏子 a.k.a 青椒肉絲の映像インスタレーションとして上映されていた。能面をクローズアップしたシーンは、実際の能舞台では味わえない迫力と美しさがあり、伝統芸能を新しい技術と組み合わせることでより魅力が深まっている。

プレスツアーでは回ることができなかったが、ほかにも会場として、ホストクラブ「AWAKE」やギャラリー「WHITEHOUSE」でのパフォーマンス、ユニカビジョン​​での映像作品上映、そして深夜には王城ビルB1Fで音楽ライブや歌舞伎町の路上でパフォーマンスなどが展開されていたよう。また、11月2日、3日には、歌舞伎町タワー前のシネシティ広場にて「歌舞伎超祭」も開催され、多様性とエネルギーに満ちた歌舞伎町の夜をさらに盛り上げた。

会場から会場へと移動する際、全く別の目的で歌舞伎町に訪れている人々とすれ違う。まさかこちらがアートナイトの会場を巡っているとは思っていないだろう。なんだか並行世界から歌舞伎町の夜を覗いているような気持ちになる。映画館、居酒屋、キャバクラ、バッティングセンター、ラブホテル。こんなにも目的の違う人々がこんなに狭い区間で同じ夜を過ごしながら永遠に出会うことなくすれ違っていく。
作品の鑑賞だけでなく、自分が体験するこの奇妙な夜そのものが、歌舞伎町アートナイト「BENTEN 2024」のスペシャリティだったんじゃないかと思う。

BENTEN 2024
HP: https://benten-kabukicho.com/
IG : @benten2024_kabukicho

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Orie Ishikawa

ZEROMILE編集担当。 歴史、文学、動物、お酒、カルチャー、ファッションとあれこれ興味を持ち、実用性のない知識を身につけることに人生の大半を費やしている。いつか知床にシャチを見に行きたい。

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