伝統建築と古今東西のアートが織りなす比類なき一棟貸しのヴィラ「キュレーションホテル 」

昨年、河口湖エリアにてオープンした「岳麓翠苑」。

再び訪れたくなるステイ先との出会いは、旅の記憶を格段にエモーショナルな高揚感で満たしてくれるもの。そこで紹介したいのが、後世に受け継ぐべき日本の建築を礎に、国境を超えたアートがコンセプチュアルに同居した一棟貸しのヴィラを展開する「キュレーションホテル」だ。

都心から程近いリゾートタウン熱海に「桃乃八庵(とうのやあん)」「桃山雅苑(ももやまがえん)」「須藤水園(すとうすいえん)」の3軒を構え、昨年には河口湖に「岳麓翠苑(がくろくすいえん)」が幕を開けた。“キュレーション”という新たな価値観を宿泊体験に織り込んだ、計4軒のプロジェクトを手がけたのは、ロンドンで17年間に渡り活躍してきた世界的なインテリア・デザイナーである澤山乃莉子さんである。いずれの施設においてもグローバルなデザイン賞「Design et al 2023」で入賞、特に「岳麓翠苑」においては部門賞受賞を果たし、海外からの注目を集めている。

梅の郷である熱海に因み、熊谷 雛氏による和紙アートを室内のガラス壁と引き戸に施して(桃乃八庵)。

澤山さんが発案した「キュレーションホテル」が目指す一番のキーワードは、失われつつある日本の伝統建築を再生することにある。
2018年に第1号として誕生した「桃乃八庵」は、かつて旅館だった当時築85年の数寄屋造りの伝統建築が根幹をなす。解体寸前のところを掬い上げ、単に修繕するに留まらず、今では再現が不可能な匠の技や年月を湛えた侘び寂びの美しさを引き立てるように、アートピースや家具や照明を自由な発想で配置。用の美が息づく日本文化を再発見する場へと変容させた。

1枚目:伝統の洗いの技で現れた見事な天井の梁や、暖炉として設えた中央の黒い門構えが空間に躍動感を与える。
2枚目:床柱や書院棚の風情は当時のままに、工芸品のようなキャビネットやアートピースにモダンなセンスが光る。
(桃乃八庵)

築100年以上の有形文化財に、雅やかな美をドラマティックに散りばめて (須藤水園)

また、それぞれの建物を所有するオーナーの目利きによって蒐集された貴重なアートピースを愛でることも「キュレーションホテル」の魅力である。なかには幕末に海外へ流出した日本の文化遺産と呼べる絵画や調度品もある。例えば、「桃山雅苑」では、幕末に流出した1800年代の琳派による富士の屏風絵が、天井高3.9m、100㎡という壮麗なラウンジの壁を飾る。ワルシャワ国立美術館でも展示された大胆な構図とラピスラズリの青が、富士の神聖なオーラを空間に宿すようだ。一流の作品を間近に眺めながら過ごすプライベートな時間と空間は、特別な感動と思い出を心に刻む。

1枚目:遠目にもインパクトを放つ富士の屏風絵 (桃山雅苑)。
2枚目:鹿の木彫は1000年以上前の平安時代初期のもの。山を駆け巡るイメージで桃山の稜線を左官アートで表現(桃山雅苑)。
3枚目:こちらも幕末に流出した長崎螺鈿のキャビネット(桃乃八庵)。

さらに、往時の姿を現代的にアップデートした空間では、人が集い学ぶ、文化交流の場としてサロン的な役割を果たすことも、「キュレーションホテル」の大切なコンセプト。そのため、いずれの建物にも十分な広さを誇るリビングスペースを主役に据え、プロジェクターを設置できる場所も計算。1976年代に建てられ、保養所としての役目を終えた600㎡に及ぶ建物を大胆にリノベーションした「桃山雅苑」では、ライブラリーを備えた大きなダイニングテーブルを置くほか、大型モニターを備えた書斎オフィスもあり、能楽を楽しむオプションもある。

10人が掛けられるダイニングテーブルは、伊勢神宮の社からイメージしたオリジナルの設計(桃山雅苑)。

吹き抜けのリビングサロンに、鮮やかな配色と多様なマテリアルが交差する(岳麓翠苑)。

築200年以上の有形文化財に登録された「岳麓翠苑」では、2階まで吹き抜けるダイナミックなリビングとダイニングをひとつの空間として繋いだ。壁には館の威厳を代弁する源氏物語の屏風、富士講の浮世絵、風雅な春夏秋冬を描いた襖絵を。天井からは造形作家による照明アートが空間のレイヤーを躍動的に飾る。

さまざまな伝統と革新を融合させた空間の価値もさることながら、この場を拠点に観光業界にも一石を投じるインパクトを秘めている。アーツ&クラフツツーリズムの未来を牽引するヴィラで、日本の美意識を深く知る宿泊を体験してほしい。

滞在中はキッチンを自由に使うこともできほか、寿司のパフォーマンスやプライベートシェフのオーダーも可能。

◾️「桃乃八庵」(熱海エリア)
日本初となるキュレーションホテル。1933年築のかつて旅館だった数寄屋建築と、家具やアートをスパイスとした異国情緒が絶妙に調和。越前和紙をアクリルに埋め込んだ、キッチンのアイランドカウンターも一見の価値がある。3部屋定員6名。

◾️「桃山雅苑」(熱海エリア)
1976年築の、かつて保養所だったコンクリート建築を、熱海の海と山、伝統芸能をテーマにリノベーション。篤志家でもあるオーナーがコレクションした若手作家の個性豊かなコンテンポラリーアートと過ごせる。4部屋定員8名。

◾️「須藤水園」(熱海エリア)
1920年築の有形文化財に指定された入母屋建築を“雅の美”をテーマにデザイン。建物に宿る侘び寂びの風情と、狩野派の屏風や絢爛豪華なインテリアとのコントラストが見事。2部屋定員4名。

◾️「岳麓翠苑」(河口湖エリア)
築200年で国の有形文化財に登録されているダイナミックな木組みの母屋、風格ある門塀や格調高い日本庭園を有する豪農の館。威厳に満ちた佇まいを残した和室空間と、コンテンポラリーな感性を注いだリビングダイニンなど、伝統と今が融合した空間の変化も心躍る。各寝室からは富士山も眺められ、朝の目覚めとともに絶景に出会える。3部屋定員6名。

写真提供:全てキュレーションホテル協会、岡本譲治

すべての予約はキュレーションホテルの公式サイトから
https://www.curationhotels.com/

SHARE

Takako Kabasawa

クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークやブランディングも行う。着物や茶の湯をはじめとする日本文化や、地方の手仕事カルチャーに精通。2023年に、ファッションと同じ感覚で着物のお洒落を楽しむブランド【KOTOWA】を、友人3人で立ち上げる。https://www.k-regalo.info/

RELATED