等身大で楽しむ伝統とカルチャー。日本茶喫茶バー&アパレル「no count (ノーカウント)」横浜

みなとみらい線「元町・中華街」駅を出て堀川沿いを歩くと、左手には西洋文化の面影を残す「元町」が、右手には極彩色の楼門がそびえる「中華街」が見える。
1859年の開港以来、外国人向けの商店街として発展した元町と、華僑の人々が築き上げた中華街。川一本を隔てて全く異なる世界が向かい合うこの境界線は、いつ訪れても異世界に迷い込んだような浮遊感がある。

そんな二つの文化が交差するエアポケットのような通り沿いにあるのが、日本茶喫茶バー&アパレルセレクト「no count(ノーカウント)」だ。

日本茶とアパレル

剥き出しのコンクリートに、木製のテーブルやカウンターがソフトな温かみを添えている。バーカウンターには茶釜と現代的なエスプレッソマシンが並び、反対側にはデザイナーズウェアが並ぶ。

「no count」を営むのは、飲食業界で10年ほどキャリアを積んだ新井 健太氏と、アパレル販売員の経験を持つ奥様の愛羅(あいら)氏。店舗を持つと決めた当初から、飲食とアパレルを融合させたお店にしたいという構想があったそうだ。

店内に並ぶ商品は、自分たちで直接ブランドに交渉してルートを開拓したものばかり。撮影に伺った日は、奥様が海外に買い付けに行った際に惚れ込んだタイのブランドの商品などが並んでいた。

健太氏に店名の由来について尋ねると、「ミックスカルチャーなお店に相応しい名前を考えた時に、和製英語がいいと思い 、”嫌なこともノーカンにできる場所”という意味をこめて no countとつけました。」と語る。

作法を脱ぎ捨て、等身大で楽しむ「間」

お茶は、宮崎茶をメインに常時25種類ほど取り扱っている。健太氏によれば、宮崎茶は知名度は低いが全国5位の生産量を誇り、旨みと香りが強いのが特徴だという。
「本日の三種飲み比べ」をオーダーすると、煎茶、和紅茶、ほうじ茶の3種を出してくれた。

煎茶 『きらり』は、日本茶AWRAD2025 普通煎茶部門で最高賞のプラチナ賞を獲得した銘柄だ。一口飲むと、出汁を飲んでいるかのような旨みが口いっぱいに広がる。

和紅茶『美郷町』は、あっさりとした味わいながらも香り高く華やか。中国茶葉を発酵させ紅茶にしているため、アッサム茶葉で作られた紅茶よりも渋みが少ないのだそう。

ほうじ茶『宮崎一番茶』は、通常ほうじ茶にはしないような、上質な一番茶の茶葉を使用しており、香ばしさの中に柔らかい甘みがある。

さらに、メニューには、日本茶のほか、ドリップコーヒーやエスプレッソ、お茶を使ったカクテルなどもラインナップされている。せっかくなので、茶カクテルの「抹茶ビア」をオーダーしてみた。

抹茶を立てる際、茶道の時のようについ緊張してしまいそうになったが、健太氏は流れるような手つきで茶釜に入ったぬるめのお湯と、エスプレッソマシンの熱湯を混ぜはじめた。お茶の種類やお客様の好みに合わせて温度調整ができるので便利なのだそうだ。

「僕のやり方は、お茶好きからしたら邪道かもしれません。でも僕が大切にするのは作法ではなく、お茶を立てている『間(ま)』を楽しむこと。ここでは人それぞれ自由に過ごしてほしいんです」

「お茶の店をやると決めた時から、同世代や若い人にカジュアルに楽しんで欲しいと考えていました。自国の文化だからこそ、いい意味でもっと”雑”に扱ってもいいんじゃないかと思うんです。」

お茶が限られた人だけが楽しむものになってしまうと、需要は減り、茶農家が消え、いずれなくなってしまう。文化として大事に扱うハイエンドな場所と、日常の中で飲み物として楽しむカジュアルな場、それぞれの道があっていい。歴史あるファッションブランドがそうして生き残ってきたように。

時代も文化も超えた先にある「自分らしさ」

健太氏が日本茶喫茶バーという形態に行き着いた背景には、幼少期に時間を共にした祖父母の存在がある。喫茶店を営んでいた祖父と、茶道を嗜んでいた祖母。自分の店を持とうと考えていた時、祖母が遺した茶器を手にし「これを使えということか」と直感的に繋がった。あえて「日本茶”喫茶”バー」と謳っているのにも、祖父へのリスペクトが込められている。

飲食とアパレル。伝統とモダン。そして、夫婦それぞれのパーソナルな歴史と思い入れ。「自分たちらしさ」というフィルターを通したミックスカルチャーが「no count」を形作った。

「日本や横浜のものを外の人に紹介するお店というよりは、外で見つけたものやアイデアを横浜に持ってきて、東京だけじゃなく横浜もかっこいいことをやってると思わせたいんです」

外の空気を取り入れ、内側の情熱と混ぜ合わせることで、新しい価値を生み出す。
開港以来、海の外からあらゆる文化を飲み込み、独自のスタイルを築き上げてきたこの街の精神とも深くリンクしている。

伝統を重んじながらも、自分たちの感性で自由に未来を切り拓く。元町・中華街の境界線に立つ「no count」は、日本茶の新しい可能性と、横浜という街の奥深さを教えてくれる。

日本茶喫茶バー&アパレルセレクト no count
住所:〒231-0023 神奈川県横浜市中区山下町112-1 サンリバー元町 1F
営業時間:
月〜土曜日 14:00〜23:00
日曜日 14:00〜21:00
定休日:毎週木曜
instagram : @nocount_yokohama

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Orie Ishikawa

ZEROMILE編集担当。 歴史、文学、動物、お酒、カルチャー、ファッションとあれこれ興味を持ち、実用性のない知識を身につけることに人生の大半を費やしている。いつか知床にシャチを見に行きたい。

Photo by Ippei Fukui

ZEROMILE編集部カメラマン兼グラフィックデザイン担当。日々のクリエイティブワークを通じて培ったスキルを写真にも生かしながら腕を磨いている。

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